あの傑作『マルコヴィッチの穴』の監督スパイク・ジョーンズと脚本のチャーリー・カウフマンが再び組み、フランスCFとミュージッククリップ界の才人ミシェル・ゴンドリーに監督を任せた、それだけでも既にわくわくする。おまけにキャストがこの面子! 期待を裏切らない、とんでもなく奇想天外、しかもどこかでちくりと鋭く心を突き刺す、不思議世界が展開する。
ホルモン異常で動物のように毛深くなったため、人間生活を諦めて森で暮らし始めたライラ。森での暮らしをエッセイに書いてベストセラー作家となり、脱毛サロンのエステシャンの紹介で、生物学者ネイサンと結婚。やさしくまじめなネイサンだが、孤児の彼を引き取ってくれた養父母の厳格な教育がトラウマとなって、偏執的に礼儀作法にこだわり、ねずみにテーブルマナーを仕込んでいる。
ある日、森を散歩していた彼らは、文明を捨てた父によって猿として育てられた男を発見。ネイサンは助手のガブリエラと協力、捕えた猿男をパフと名づけて人間教育を施そうとするが・・。
科学技術で自然を克服・支配し、洗練された礼儀作法でお互いにそつなくつき合う。文明と言う名の欺瞞。きれいで便利なその裏に、じつは獣よりも獣的な欲望が隠れている。
それを象徴するのが、洗練の極地であるフランスに憧れるお上品なお嬢様にしてニンフォマニアのガブリエル(演じるミランダ・オットーは、『ラヴ・セレナーデ』『女と女と井戸の中』などの不思議系映画で私の大好きな人です)。ライラとパフは、そんな人間たちに反発するが、と言って、じつは欺瞞的な文明にもそれなりに捨てがたい味わいがあったり・・。その辺りが絶妙のバランスで描かれ、どっちへ転がってゆくか予測がつかない。
そのはざまで重要なかぎを握るリス・エヴァンズ(『ノッティング・ヒルの恋人』でヒュー・グラントのおかしな同居人を演じていた)のキャラは、もう最高! ワイルドで女好きな猿男の本性と、次第に文明化されて上等の服を着込んだ知的な紳士ぶり、双方のバランスがやはり絶妙だ。
ただしラストには賛否両論ありそう。私としては承服し難いところもあるのだが、でもこの結末のおかげで、その前のライラの美しさがいっそう陰影の深さを増している、ことは確かだ。